照射レーザーとして水が吸収をもつ1064nmと吸収をもたない532nmの2つの波長のレーザーを用い、種々の有機溶媒中の水滴の光泳動挙動を観測し、これを解析した。水滴が吸収をもたない532nmのレーザーによる光泳動速度は、Mie散乱理論を用いて計算した速度と一致した。一方、1064nmのレーザーを用いた場合には、液滴が顕微鏡の焦点からはずれながら泳動する、液滴が溶解し直径が小さくなりながら泳動するなど特異的な泳動挙動が観察された。このときの泳動速度はMie散乱理論から予想される泳動速度よりも小さくなった。この原因は光熱変換による水滴周囲温度の局所的な異方性や水滴自身の温度上昇による媒体への溶解によると考えられる。また、532nmのレーザーを用いて液中生体微粒子である血球細胞についてレーザー光泳動挙動を観測した。光泳動速度は血小板が白血球より小さく、赤血球が白血球の10倍以上大きいことを見出した。赤血球はレーザー波長に吸収をもつため、泳動効率が高いこと、光熱変換により媒体の粘度が低下することが原因である。温度相分離性高分子を媒体に導入することにより赤血球周囲の温度が31℃以上に上昇していることを確認した。この結果より、光熱変換光泳動により血液中の赤血球、白血球、血小板をそれぞれ分離できる可能性を示した。さらに、ヘプタンやヘキサデカンなどの有機溶媒を満たしたマイクロキャピラリーに532nmのレーザーを照射すると気泡が発生し、この気泡がレーザー位置にトラップされることを発見した。通常、媒体より屈折率の小さな気泡はレーザートラップできないことが知られており、気泡のトラッピングはレーザーの輻射圧の考えでは説明できない。レーザー位置への気泡のトラッピングは、光熱変換によるレーザー照射位置の温度上昇と熱伝導によるキャピラリー内での温度および媒体密度勾配の生成によるものと考えられる。
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