平成15年度に確立した試料および電極の等価回路モデルをもとに、交流ブリッジ型検出回数を自作し、交流バイアスをもちいた電気的検出磁気共鳴(EDMR)計測を行った。その結果、バルク試料と電極間のショットキー障壁などによる影響をキャンセルすることが可能となった。さらに、酸化皮膜などの薄い絶縁層を交流変位電流で貫通させられることも実証できた。これらの結果、バルク材料の表面酸化皮膜の除去オーミックコンタクトを得るための電極形成が不要になり完全な非破壊電気的磁気共鳴検出が可能となった。本研究で開発した交流バイアス法では、得られるEDMRスペクトルは従来の手法とまったく同一であることが確認できた。総合的なS/N比においては従来法より低下しているが、高抵抗の試料を比較的高い周波数で計算するため、外来雑音の影響が大きいことが原因であることが判明しており、検出回路やシールドの工夫で、従来法と同程度の感度が得られることが示唆されている。 また、EDMR信号の実測においても、いくつかの先導的な実験結果を得ることができた。1つは試料に局所的な光によるキャリア励起を行い、EDMR信号を画像化することで、試料の様々なパラメータを調べることが可能であることを示すことができた。もう1つは、最近性能向上が著しい紫外発光ダイオードを励起光源とすることで、これまでEDMR法では計測されたことのないバンドキャップが極めて大きい化合物半導体のEDMRスペクトルの計測に成功したことである。 さらに、EDMRの計測に必要な静磁場発生、ラジオ波照射のための共振器、画像化の手順などについても実用的な手法を提案し有効性を実証することができた。 これらの結果、EDMR法はシリコン半導体素子のみならず、バルクの化合物半導体など広い対象に利用可能であることを示すことができた。さらに交流バイアス法では、直流バイアス印加による酸化・還元が問題となるような不安定な系でもEDMR計測が可能であり、応用範囲を大幅に拡大できた。
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