研究概要 |
本研究では、ルテニウム錯体触媒が、8-10族遷移金属の中で特にd電子不足の前周期性を示し、極めて高いヘテロ原子親和性を示すとの観点から、ルテニウム錯体触媒に特徴的な極性小分子の高効率活性化を行い、新規炭素-ヘテロ原子結合生成反応を開発することを目的とする。その過程において、触媒系および反応場の繊密な制御を行うことにより、副生成物を一切排出しない省エネルギーでかつ「環境にやさしい」触媒的新合成手法を確立する。 ルテニウム錯体触媒は、アルコールの酸化反応やアルコールを用いるアミンのN-アルキル化反応等、アルコール水酸基の活性化を経る水素移動反応に高い触媒活性を示すことが知られている。これらの反応では一般に、アルコール水酸基のルテニウム活性種への酸化的付加、続くβ-水素脱離反応により、ケトンあるいはアルデヒドが生成するが、我々は、β-水素脱離反応が進行しない1,1-二置換アリルアルコール類の酸化的環化カルボニル化反応、および1,1-二置換ホモアリルアルコール類の触媒的炭素-炭素結合切断反応を開発し報告している。本研究では、さらに炭素鎖を一つ延ばした1,1-二置換 4-ペンテン-1-オール類を基質に選び、ルテニウム錯体触媒を用いる新規変換反応の開発を行った。その結果、酢酸アリルおよび炭酸カリウム共存下、一酸化炭素加圧下ヒおいて、Ru_3(CO)_<12>/PPh_3触媒系を用いる1,1-二置換 4-ペンテン-1-オール類の酸化的環化反応が良好に進行し、対応する2,3-ジヒドロフラン誘導体が高収率で得られることを見出した。 次に、ルテニウムおよび種々の金属ハロゲン化物を触媒とするスルフェンアミド類のアルキンへの高位置及び立体選択的付加反応を開発した。例えば、スルフェンアミドPhSNEt_2と電子不足アルキンであるプロピオル酸メチルとの反応を、[RuCl_2(CO)_3]_2触媒存在下、DMF中、40℃、6時間行った結果、methyl(2Z)-3-(diethylamino)-2-Phenylthioprop-2-enoateが単一の位置および立体選択的付加物として定量的(収率>99%)に得られた。 一方、環境調和型新規遷移金属錯体触媒反応の開発のためには、新規0価ルテニウム錯体触媒の合成が不可欠である。そこで、我々が初めて合成したRu(η^6-cot)(dmfm)_2[cot=1,3,5-cyclooctatriene;dmfm=dimethyl fumarate]錯体を出発原料として用い、芳香族炭化水素との反応、p-キノン類との反応、さらにPyboxに代表される不斉窒素三座配位子との反応を詳細に検討した結果、それぞれ対応する新規0価ルテニウム錯体の創製が可能となった。
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