末端にアセチルチオフェニル基を有するオリゴフェニレンエチニレン3量体(OPE3S)とドデカンチオール(C12SH)との混合溶液から調製した自己組織化膜(SAM)を金基板上に調製して吸収スペクトル測定を行ったところ、330nmを中心とするオリゴフェニレンエチレンの長軸方向の遷移モーメントに基づく吸収が観られた。またIRRASスペクトルでは、OPE3S由来の1510cm^<-1>(vC=C)のピークと、C12SH由来の2910cm^<-1>(vasCH)、2850cm^<-1>(vsCH)のピークが共に観測され、OPE3SとC12SHが混合SAMを形成することがわからた。一方、OPE3Sとヘリックスペプチド(SSL12BとBL12SS;いずれも12量体ペプチドでN末端側で金基板に固定化或いはC末端側で金基板に固定化)との混合溶液から調製したSAMの場合、UV吸収スペクトルでオリゴフェニレンエチニレン由来の吸収ピークが観られ、混合SAMの形成されていることがわかった。また、IRRASスペクトルにおけるアミドIとアミドIIの吸収強度比から、ヘリックス軸の基板法線方向からの傾き角を求めたところ、SSL12Bの場合、単独SAM、混合SAMいずれにおいてもペプチド分子の配向角は44°と変わらなかったの対して、BL12SSの場合、単独SAMでは47°であった配向角が、OPE3Sとの混合により64°まで変化した。これはOPE3SのダイポールモーメントとBL12SSのダイポールモーメントが同方向であり、互いに反発するため、規則正しい膜の形成が妨げられたためと考えられる。以上のように、チオール基を末端に有するオリゴフェニレンエチニレン3量体は、ドデカンチオールあるいは、ジスルフィド基を末端に有するヘリックスペプチドをマトリックスとして、混合自己組織化膜を形成することがわかった。また、ペプチドとの混合膜の場合、ペプチドのダイポールモーメントの向きが膜の分子配向に影響を与えるという興味深い知見を得た。
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