分子ナノワイヤの構築に向けて、側鎖にチオフェン部位を有するリシンとαアミノイソ酪酸との交互配列8量体と12量体の合成を行った。現在、8量体の合成まで終了している。合成が完了次第、含硫黄基をN末端にを結合し、金と硫黄との結合を利用して金基板上に自己組織化膜を調整し、チオフェン部位の導入が、ヘリックスペプチドを介した電子移動にどのような影響を与えるかについて調べる。これとは別に、N末端にチオアセチルフェニル基あるいはジスルフィド基、末端あるいは側鎖にフェロセン部位を有する種々のヘリックスペプチドを液相法により合成し、得られたペプチドから自己組織化膜を調整し、電気化学測定および走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた測定を行い、ヘリックスペプチドを介した電子移動反応について調べた。フェロセン部位を有するペプチドの単独膜を用いたクロノアンベロメトリー測定の結果、ヘリックスペプチドではアミド基がホッピングサイトとして機能し効率のよいホッピングが起こるため、電子移動が長距離まで及ぶこと、ペプチド末端のアミド基から金表面への電子移動が律速段階になっていることなどがわかった。また、ヘリックスペプチドをドデカンチオール自己組織化膜中に挿入したサンプルのSTM測定では、単一あるいは数分子からなるバンドルの観察に成功し、走査トンネル分光の結果、ヘリックスペプチドが優れた電子伝達能により電子トンネリングが促進されること、末端に導入したフェロセン部位の存在によりペプチドとどちらか一方の金属(基板あるいはSTMチップ)との界面における電子移動が促進され、その結果、非対称で整流性の電流電圧応答を与えることなど、数々の興味深い知見を得た。
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