本研究は、これまでに合成されたことのない、新しい構造を持つポリマー"ポリ[3]ロタキサン"の合成と性質に関するものである。本年度は、研究の初年度であり、まずこのポリマーの合成について詳細に研究した。ついで、この様式の反応をネットワークポリマー合成へ展開し、トポロジカルゲルという、新しいゲルの創製を行った。 本研究では、チオールとジスルフィドの反応では、ジスルフィド結合が比較的ゆっくりとした速度で会列へ以降にあるという、いわゆる「チオール-ジスルフィド交換反応」を利用している。軸成分として、両末端にかさだかい置換基を有するダンベル型の分子を設計した。この分子の中央にはジスルフィド結合、両サイドには二級アンモニウム塩構造を持たせた。このダンベル分子とジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル(DB24C8)構造を両端に持つイソフタルアミド型分子を、触媒量のチオフェノールとともにアセトニトリル-クロロホルム混合溶媒中で反応させた。10時間後には目的とするポリ[3]ロタキサンが収率65%で得られ、その分子量は25000であった。この反応に関し、軸および輪となる成分の構造の効果、溶媒の効果、触媒の効果、それぞれの濃度効果などに関し詳細に検討した。また、モデル反応も行い、分子量(重合度)が、予測とほぼ一致することも見いだした。さらに、得られたポリマーの熱物性を測定し、比較的高い耐熱性を持つことを明らかにした。この重合反応は、チオール-ジスルフィド交換反応を利用する平衡反応であり、重合反応が温度、溶媒の極性、並びに濃度に強く依存することも明らかにした。 ついでこの反応をクラウンエーテルが多数連なったポリクラウンエーテルを輪成分とする系に適用した。その結果、ポリ[3]ロタキサン合成と同様の条件下で、収率よく対応する不溶性ポリマー、すなわち、ポリロタキサンゲルが得られた。このポリマーは有機溶媒に対し膨潤し、例えばDMFに対しては約15倍の溶媒吸収能力を示した。このようにしてられるゲルは無色透明で弾力性があり、新しいタイプのゲルポリマーとして注目される。それは、この種のポリマーが従来の化学ゲルでも物理ゲルでもない特性を示すことが、最近示されているためである。
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