本研究は、時間分解電子スピン共鳴(TREPR)法を用いて、有機電界発光(EL)素子の一重項蛍光の寄与(η_s)の統計的上限値(0.25)を超える無機錯体および有機共役高分子化合物を取り上げ、高効率発光機構を解明することを目的として行われた。平成16年度はこの目的を達成するために、以下の点について研究を進めた。 (1)低分子発光材料の励起三重項状態 励起三重項からのリン光がEL発光に関与していると考えられている代表的な化合物群について、励起状態の性質を明らかにするための研究を進めた。試料の合成が完了しているIr錯体の励起三重項状態からの発光スペクトルおよびこの状態の時間分解EPRスペクトルを観し、スピン-軌道(SOC)相互作用の寄与について検討した。 (2)有機発光色素の逆項間交差緩和過程 低分子の有機色素(Rhodamine系、シアニン系)化合物について、逆項間交差緩和の量子収率を決定するための予備的研究として、これらの種の霊亀三重項状態の時間分解EPR測定を行った。さらに、新規に備品として購入したエキシマー・レーザーを波長可変の色素レーザーと組み合わせ、レーザー二段階励起時間分解EPR測定が可能なシステムとして調整した。このことにより、数種の有機色素系の逆項間交差緩和過程の量子収率を決定するための、測定・解析を進めている。 (3)有機共役高分子の時間分解EPRスペクトル 有機共役高分子として代表的な共役高分子ポリフェニレンビニレンおよびポリチオフェンの光励起に伴い生成する励起状態の性質を明らかにするために、均一溶液およびキャスト・フィルム中での過渡的に生成する常磁性種の時問分解EPR測定を進めた。さらに、ドープ剤としてポルフィリン、フラーレンの添加効果について、発光スペクトル・EPR測定結果をもとに検討した。
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