スピンと電荷の相乗効果による動的スピンクロスオーバー現象とその多重機能性の開発

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15350078
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 小島 憲道 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (60149656)
• 研究分担者: 榎本 真哉 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助手 (70345065)
• キーワード: 電荷移動相転移 / スピンクロスオーバー / 混合原子価錯体 / 強磁性 / 配位子場 / スピンエントロピー / 非対称配位子

研究概要

配位子場がスピンクロスオーバー領域にある混合原子価錯体では、電荷移動とスピンクロスオーバー転移が連動した特異な相転移を起こす可能性を持っている。このような観点に立ち、我々は非対称配位子dto(=C_2O_2S_2)を架橋とする鉄混合原子価錯体(n-C_3H_7)_4N[Fe(II)Fe(III)(dto)_3]を開発し、Fe(II)からFe(III)への電子移動とスピンクロスオーバー転移が連動した新しい型の相転移を発見した。
本研究では、この新しい型の相転移の発現機構を解明するため、配位子場がスピンクロスオーバー領域にある非対称配位子dto(=C_2O_2S_2), mto(=C_2O_3S), tto(=C_2OS_3)を架橋とする鉄混合原子価錯体(n-C_nH_<2n+1>)_4N[Fe(II)Fe(III)X_3](n=3-6,x=dto, mto, tto)を合成し、その結晶構造および磁気特性を研究した。単結晶構造解析の結果、(n-C_3H_7)_4N[Fe(II)Fe(III)(dto)_3]はdto(=C_2O_2S_2)を架橋としてFe(II)およびFe(III)が交互に結合し、2次元蜂の巣構造を形成していることを明らかにした。特筆すべきこととして、メスバウアー分光、磁化率およびESRの測定により(n-C_nH_<2n+1>)_4N[Fe(II)Fe(III)(dto)_3](n=3-4)においては、Fe(II)からFe(III)への電子移動とスピンクロスオーバー転移が連動した新しい型の相転移(電荷移動相転移)が発現するが、n=5,6では発現しないことを見出した。また、電荷移動相転移は外部圧力に極めて敏感であり、電荷移動相転移を起こさない(n-C_5H_<11>)_4N[Fe(II)Fe(III)(dto)_3]において外部圧力を印加すると0.5GPa以上で突然電荷移動相転移が発現することを見出した。また、この系は、すべて強磁性になること、強磁性発現の主な原因はFe(II)-Fe(III)間電荷移動相互作用であることを明らかにした。また、非対称配位子mto(=C_2O_3S)を架橋とする鉄混合原子価錯体(n-C_nH_<2n+1>)_4N[Fe(II)Fe(III)(mto)_3](n=3-6)では、Fe(III)の位置に反転対称がないため、強磁性と強誘電体を併せ持つ機能性が期待され、その開発に着手した。

研究成果

• [文献書誌] N.Kojima, M.Itoi, Y.Ono, M.Okubo, M.Enomoto: "Spin-entropy driven charge-transfer phase transition in iron mixed-Valence system."Materials Science. 21. 181-189 (2003)
• [文献書誌] A.Nakamoto, Y.Ono, D.Matsumura, T.Yokoyama: "Spin crossover complex film, [Fe^<II>(H-trz)_3]-Nafion, with a spin Transition around room temperature."Chem.Lett.. 32. 336-337 (2003)
• [文献書誌] S.Miyashita, N.Kojima: "Generalized Wajnflasz model for charge transfer spin-crossover phenomena."Prog.Theor.Phys.. 109. 729-739 (2003)
• [文献書誌] J.Liu, Y.Moritomo, T.Kawamoto, A.Nakamoto, N.Kojima: "Optical hysteresis in a spin-crossover complex."Phys.Rev.B. 67. 012102-1-012102-3 (2003)
• [文献書誌] J.Liu, Y.Moritomo, T.Kawamoto, A.Nakamoto, N.Kojima: "Dynamical phase transition in a spin-crossover complex."J.Phys.Soc.Jpn.. 72. 1615-1618 (2003)
• [文献書誌] Y.Ono, M.Okubo, N.Kojima: "Crystal structure and ferromagnetism of (n-C_3H_7)_4N[Co^<II>Fe^<III>(dto)_3](dto=C_2O_2S_2)."Solid State Coomun.. 126. 291-296 (2003)
• [文献書誌] 小島憲道, 守友浩: "集積型金属錯体の科学-物質機能の多様性を求めて"大川尚士,伊藤翼 編,化学同人. 273(113-117) (2003)