研究概要 |
表面増強ラマン(Surface Enhanced Raman Scattering : SERS)分光法は,高感度な定量・定性分析法への応用が期待されているが,増感剤として金や銀などの貴金属ナノ粒子の凝集体を必要とする.現在利用されている金属ナノ粒子の多くは,クエン酸などのイオン性の有機分子で表面が保護されており.生体試料などイオン強度の高い試料中では分散安定性に乏しく実用に向かない.本研究の目的は,再現性の高いSERS効果を発現させる安定な金属ナノ粒子を開発することにある.これまでは金属ナノ粒子の分散安定性を高めるために,その表面を水溶性ポリマーで修飾するなどの方法がとられている.しかし,過度の安定性向上は逆に凝集体の形成を難しくしたり,検出対象種が厚い保護層に阻まれSERS活性な金属表面に接近できなかったりと,安定性と機能を両立させた金属ナノ粒子を提供するには至っていない.そこで,SERS活性を保持させるために保護層は単分子層とし,その保護剤に糖を利用することにした.糖のイオウ類縁体と塩化金酸を反応させ,一段階で容易に糖保護金ナノ粒子を得る合成法を開発した.TEM観察から合成された金ナノ粒子は.粒径が2〜30mmの多面体構造をした粒子であることがわかった.また,その平均粒径は,保護剤(糖)と金イオンの混合比など反応条件を変えることで制御できることを見出した.さらに,0.1mMのNaClを含むHEPES緩衝溶液(pH=7.4)に糖保護金ナノ粒子を分散させ,クエン酸保護金ナノ粒子と安定性を比較した.クエン酸保護金ナノ粒子が,瞬く間に凝集し3時間後にはすべて析出してしまったのに対して,糖保護金ナノ粒子は24時間後もほとんど凝集せず安定であった.しかし,さらに無機塩を加えるなど適当な添加剤を加えることで凝集を誘起できることもわかった.今後は,凝集体のSERS活性を評価し,生体試料の定性・定量分析を行う.
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