研究概要 |
前年度はBDH-TTPのジメチル体であるDMDH-TTP(シス体とトランス体の混合物)の合成に成功し、それを用いて電荷移動塩の作製を試みた結果、選択的にシス体であるmeso-DMDH-TTPのラジカル塩を得た。本年度は新たに(meso-DMDH-TTP)_2BF_4を作成した。この塩も低温(4.2K)まで金属的挙動を示すが、構造は前年度得られたAsF_6,PF_6塩とは異なる。λ型のドナー配列を取り、一元的な開いたフェルミ面と閉じたフェルミ面を有しており、このため低温まで金属的挙動を示したと考えられる。また、DMDH-TTPの混合物からは新たに低温(4.2K)まで金属的挙動を示すI_3塩、低温で金属絶縁体転移を示すAuI_2、GaCl_4塩(金属絶縁体転移温度はそれぞれ9K、12K)を作成した。一方、不斉源として(R,R)-2,3-ブタンジチオールを用い、キラルな(S,S)-DMDH-TTPを合成し、ラジカル塩として低温(4.2K)まで金属的挙動を示すBF_4塩、低温で金属絶縁体転移を示すAsF_6、AuI_2塩を作成した。AsF_6、AuI_2塩の金属絶縁体転移温度はそれぞれ96K、110Kである。AsF_6塩についてはX線構造解析を行った結果、ドナーとアニオンの比が3:1でドナーはβ型に積層している事を明らかにした。また、一部のメチル基においてはdisorderが観測された。以上のようにBDH-TTPのジメチル体であるDMDH-TTPにおいてもmeso体とキラル体とではラジカル塩の構造や物性も大きく異なることを明らかにした。また、DMDH-TTPからは低温(4.2K)まで金属的挙動を示す塩も多数出現することを明らかにした。圧力を加えたり、対イオンを変えて超伝導体を開発することが今後の課題として残された。
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