研究概要 |
本研究課題は,金属内包フラーレンを中心とするフラーレン類の固体・薄膜およびナノメータスケールでの新規な物性の発現を目的として立案された.研究計画では平成15年度は,(1)金属内包フラーレンの結晶性固体を得て,様々な温度・圧力領域で得られる結晶相の構造と物性を調べる。(2)金属内包フラーレンの薄膜での電気抵抗率から,電子輪送特性を調べるとともに,金属内包フラーレン,ならびにその関連物質の薄膜電界効果トランジスター(FET)を作製する,さらに(3)半導体基板上に様々なナノスケール構造体を作製して,その構造体自身が発現する物性を調べることなどを行うことにした.その結果,CG@C_<82>の二つの異性体に関して,10-500Kの広い温度領域ならびに,1bar-5GPaの広い圧力領域での結晶構造を,放射光X線を利用した粉末X線回折によって明らかにすることができた.とくにCs対称の異性体(異性体IIと呼ばれる)の構造に関する知見は,これまで報告例の全くないものである.なお,異性体Iでは,170Kに構造相転移を見いだした.また,M@C_<82>(M:ランタノイド金属原子)の薄膜を効率的に作製する蒸着セルを開発し,様々な金属原子を内包したC_<82>と,金属原子を内包しないC_<82>の薄膜の電気抵抗率を測定した.その結果,M@C_<82>が微少ギャップ半導体であること,従来のパンド描像で脱明できず,強相関的な物質である可能性などを提起した.さらに,Dy@C_<82>を用いて,世界で初めて金属内包フラーレンFETを作製した.これに関連して,金属原子を内包しないC_<82>やC_<84>FETの作製にも成功した.これらは,高次フラーレンを用いて世界で初めて動作したFETデバイスである.Dy@C_<82>,Ce@C_<82>,Pr@C_<82>およびDy@C_<60>の異性体分離された試料の高分解STMの観察に成功し,ケージの構造,金属原子の位置などに関する情報を得た.得られた結果は,従来のフラーレンのSTM像に比べて格段に高い分解能を有しており,金属内包フラーレンのナノスケールでの構造研究を行う上で,重要な知見を与えるものであった.
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