研究概要 |
金属内包フラーレンを始めとするフラーレン物質の固体・薄膜・ナノ領域での構造と物性を調べた.また,それらの特性をもとにして,薄膜・ナノスケールの電子デバイスの作製を行った. 第一に金属内包フラーレン固体の構造を放射光を用いた粉末X線回折により明らかにした.M@C_<82>(Mは三価の金属原子)は単純立方構造(Pa3)を取り,150K付近に運動の凍結に起因する構造相転移があることを見いだした.また,金属原子をドーピングした高次フラーレン結晶であるRb_9C_<84>は,結晶が単純立方構造(Pa3)を取ること,金属的な特性を示すことを明らかにした. 第二に,金属内包フラーレンと高次フラーレンの薄膜を作製し,電気抵抗率ならびに光学吸収を測定して,バンドギャップエネルギーを決定した.また,金属内包フラーレンと高次フラーレンの薄膜電界効果トランジスター(FET)を作製して,nチャネルFET動作特性を確認した.得られた移動度はC_<88>薄膜FETにおいて10^<-2>cm^2V^<-1>s^<-1>であり,この値はC_<60>薄膜FETに匹敵する高いものである.さらに,金属内包フラーレンと高次フラーレン薄膜のFETで見られるノーマリオン特性は高いバルク電流に起因することを明らかにした. 第三に走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて,金属内包フラーレンのSi(111)-(7x7)清浄表面上への吸着特性を調べ,第一層でSiのアドアトムとの強い共有結合的な相互作用,第二層以降で分子間のファンデアワールス力による相互作用が集積過程を支配する要因であることを見いだした.金属内包フラーレンは第一層では層状に集積し,第二層以降では島を形成しながら集積する.その後,基板を200℃に加熱すると最密充填構造を形成する.強く運動が凍結された第一層上の分子は内部構造と呼ばれるケージの六員環と五員環に起因したSTMイメージの観測を可能とする. 第四に最密充填構造を形成するC_<60>分子に,電子あるいはホールをSTM探針から注入することにより,単一分子のレベルで孔を開け,文字,画像ならびにパターンを書き込むとともに,孔のとなりの分子にホール注入して,分子を移動させることに成功した.これにより,単一分子を一画素とするパターン形成技術を確立した.この技術はナノスケールのリソグラフィーの要素技術になるものと期待される. このように,研究期間内に,金属内包フラーレンの固体・薄膜・ナノスケールにおける構造と物性,ならびに新素材,デバイス応用に関する研究成果を挙げることができた.
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