平成15年度の研究により、distamycin Aという薬物が(6-4)光産物を有するDNAに結合することがわかり、損傷の有無で結合様式に違いがあることが示された。本年度はまず結合様式の違いをより明確にすることを目的とし、非特異的な結合を排除するために塩濃度の影響を調べた上で精密な滴定実験を行なった。実験データをカーブフィッティングにより解析した結果、(6-4)光産物の形成によりdistamycinの親和性はある程度低下したが、損傷DNAに対するstoicbiometryとしてn=2.50という数値が得られた。続いて、AATTというdistamycinの本来の認識配列と(6-4)光産物を有するDNAに対する結合についてそれぞれの差スペクトルを求めると、以前に報告された典型的な1:1および2:1の差スペクトルに一致した。損傷DNAに対しては低濃度でも2:1の差スペクトルが得られたことから、distamycin Aは(6-4)光産物を有するDNAに対して常に2:1の結合様式を示すことが明らかになった。次に、生体内で(6-4)光産物を有するDNAを認識するヒト紫外線損傷DNA結合(UV-DDB)タンパクの結合との比較を行なうために、distamycin Aが(6-4)光産物以外にどのような損傷を有するDNAに結合するかを調べた。その結果、distamycin AはUV-DDBタンパクが認識する塩基欠落部位を有するDNAに対して結合するが、タンパクが認識しないミスマッチを有するDNAには結合しないことがわかった。また、distamycin AはUV-DDBタンパクの結合が調べられていないチミングリコールという酸化損傷塩基を有するDNAに対しても同様に結合することが明らかになった。
|