T.kodakaraensis KUW1株に中等度好熱始原菌Methanothermobacter thermoautotorophicus(至適生育温度65℃)、常温始原菌であるMethanosarcina mazei(至適生育温度30℃)、中等度好熱始原菌であるThermoplasma volcanium(至適生育温度60℃)由来pyrFをそれぞれ導入した。M.thermoautotrophicus由来pyrFをもつ形質転換体はウラシルを含まない培地において良好な生育を示した。又M.mazei由来pyrFをもつ形質転換体は70℃で13日間生育が認められなかったが、14日後に生育が確認された。 更に温度を高くしたところ、80℃まで生育可能となった。増殖した菌体からM.mazei由来pyrFを増幅したところ、変異が1つ(K79I)確認された。T.volcanium由来pyrFをもつ形質転換体は75℃で4日目に生育が確認された。80℃では5日間生育が確認されなかったが、6日後に生育が観察された。本菌体内のT.volcanium由来pyrFの塩基配列を確認したところ、A206Tという変異が確認された。そこで、野生型外来pyrFおよびK79I、A206Tそれぞれ変異の入った外来pyrFを大腸菌を宿主として大量発生させ、活性に対する温度の影響を検討した。M.mazei由来pyrFに関しては野生型酵素、K79I変異型酵素ともに耐熱性は低く、70℃、10minの熱処理で活性が完全に消失した。T.volcaniumに由来する酵素においても、野生型、A206T変異型酵素の耐熱性はほぼ同等で、80℃、10minの熱処理で活性が完全に消失した。さらにそれぞれの酵素の至適反応温度や比活性を比較したが、大きな差異は認められなかった。そこで、80℃で生育が観察された形質転換体の宿主細胞の変化に注目したところ、生育に必須で耐熱性の低いタンパク質を超好熱菌内で発現させた場合、細胞内のchaperonin HSP60が誘導発現されることが判明した。これが観察された生育温度は本来のT.kodakaraensisの至適生育温度よりも低いため、この誘導発現は熱ショックによるものではなく、細胞質内の変性タンパク質の蓄積に特異的に応答したものであると考えられる。このようなunfolded protein responseは超好熱菌で報告された例はなく、その制御メカニズムは非常に興味深い。
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