研究概要 |
ヘムを情報因子としてその機能が制御される,ポルフィリンの生合成,あるいは鉄代謝に関連した制御タンパク質について,その構造化学的研究を行い,本年度は以下の結果が得られた. 1.ポルフィリン生合成制御タンパク質Irrのヘム依存性酸化的修飾 Irrは細胞内の鉄イオン濃度に応じてポルフィリンの生合成過程を制御しているが,その制御機構においては,ヘムと酸素分子の存在によるタンパク質の分解が鍵となっている.今年度はこのIrrにおけるヘムと酸素分子によるタンパク質分解について,質量分析計を駆使してその酸化様式と酸化部位の同定を試みた.その結果,Irrにおいてヘム結合部位近傍と想定されている部位に,酸素原子の挿入が観測されるとともに,さらにその周辺では通常のプロテアーゼ処理では切断されない部位で切断されたペプチドが検出された.以上の結果はヘムに結合した酸素分子が活性化され,ヘム結合部位付近に酸化的修飾とペプチド鎖の切断を引き起こしたものと考えられた. 2.鉄代謝制御タンパク質IRP2のヘム配位環境 IRP2は鉄代謝に関連するタンパク質の翻訳過程を制御しており,ヘムの結合により,ユビキチン化され,プロテアソームで分解されることが知られている.このようなユビキチン化の際にはヘムの結合による酸化的修飾が重要であると想定されているが,その分子機構を考える上で重要なヘムの配位環境は明らかではない.このIRP2において,従来の研究からヘムに配位しているアミノ酸として示唆されているドメインIに存在するHisを変異させたところ,野生型と同様な分光学的特性を示し,このHisはヘムの結合に関与していないことが示された.
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