研究概要 |
本最終年度はこれまで2年間の知見を活かし、リン酸化されたペプチドとそれを認識するアダプタータンパク質との相互作用を我々の人工レセプター群が阻害あるいは制御できるかという課題に挑戦した。 すなわち、これまでの2年間で我々は、多点認識(架橋)型の人工レセプターの開発に成功した。これらの人工レセプターではジピコリルアミンを配位子とする二つの亜鉛錯体間の距離をスペーサーユニットによって調整することにより、二カ所にリン酸化部位を有するペプチドに対する高い親和性での選択的認識が可能であることを実証してきた(J.Am.Chem.Soc.,125,10184-10185(2003))。実際のタンパク質表面においても特に受容体型のタンパク質キナーゼ(例えばインスリン受容体)などは多価のリン酸化を受ける(ハイパーリン酸化)ことが知られており、我々の人工レセプターはこれらを認識・センシングできる初めての例であった。また、この架橋認識が可能な人工レセプターを利用して、リン酸化タンパク質であるRNAポリメラーゼのC末端のリン酸化されたペプチドとそれを認識するWWドメインタンパク質との間の相互作用を阻害できかどうかを、等温熱滴定実験や蛍光異方性を用いた蛍光滴定実験から定量的に評価した。その結果、適切なスペーサー長を有する二核亜鉛錯体型の人工レセプターにおいて、マイクロモルレベルの濃度で効率よく阻害する分子を見いだした。単核亜鉛錯体やスペーサー長が適切でない二核亜鉛錯体では効率的な阻害は見られなかった。架橋型の分子認識が有効であることが端的に示された例といえる。 この結果は、人工レセプター分子が単にゲスト認識センサーとしてだけでなく、タンパク質間相互作用の阻害・調整(モジュレーター)素子としても機能することを期待させるものであり、今後の展開が注目される。
|