研究課題
基盤研究(B)
フォトクロミック・ジアリールエテンは、光反応に伴って変化する両異性体が熱安定性を有し、高い耐久性を有する分子である。この分子は次世代の情報記憶材料として期待されており、光反応を用いる次世代高密度フォトンモード光メモリ材料として検討されている。本研究では、光反応ではなく電気的なキャリア注入による有機半導体メモリへの応用研究を行った。分子に電子やホールなどのキャリア注入を行うには、その分子がキャリア受容性を有すことが重要である。そこで電子受容性であるオキサジアゾール基とホール受容性であるトリフェニルアミン基を有する非対称型ジアリールエテン分子を設計し、その蒸着薄膜に対してキャリア注入を行うことで初めてキャリア注入による異性化反応に成功した。これにより超高密度記憶が可能な有機半導体分子メモリの新原理が実証された。さらに光照射によるメモリ素子の消去のセル選択性(ランダムアクセス消去)を確保するために、電界印加による光異性化反応感度制御を試みた。ジアリールエテン膜の着色状態膜に対して種々の波長の光照射を行い外部に取り出される光電流を調べた。外部光電流は光励起状態分子からHOMO・LUMOレベルのホール・電子が移動し、電極を通じて取り出されたことになり、励起状態が強制的に基底状態に戻されることを意味している。実験結果によれば光の波長が短いほどこの外部キャリア生成効率は高く、約1V/nm程度の電界で数十%程度の効率が得られることが判明した。これはこの電界強度では光異性化反応の量子収率が大幅に制御できる可能性を示していることになる。尚、本研究を遂行中に偶然、特定のジアリールエテンにおける異性化状態に依存した特異なマグネシウム蒸着選択機能を発見した。これは有機メモリの微細な電極形成に応用可能であり、当該分野に大きな影響を与える技術になるであろう。
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