研究概要 |
代替エネルギー開発において、リチウム2次電池のような蓄電技術は石油に比べ取り扱いにくいエネルギー源を安全化する一つの候補技術である。本研究は、大型化に適した安価、毒性が低いスピネル型リチウムマンガン系酸化物の結晶欠陥に注目して分子設計を行うことにより、リチウムイオン電池正極として容量特性およびレート特性の向上をはかることを目的としている。 平成17年度は、酸素欠陥を導入することで5V級正極LiNi_<0.5>Mn_<1.5>O_4のNi/Mnカチオン配列を制御できるという前年度まで得られた知見に基づき、より定量的な構造と電池特性の関係解明を目指した。高速充放電を可能にするためには、結晶内におけるリチウムイオンの拡散能向上が求められる。Nudged-elastic-band法により遷移状態を考慮した第一原理計算によって、スピネル中でのリチウム拡散に伴う活性化エネルギーの見積もりを行なった。その結果、Ni/Mnがオーダリングすることによって、0.38eVおよび0.33eVの活性化エネルギーからなる2つの拡散パスが存在することが明らかになった。これは、拡散係数にして約10倍の変化をもたらす。従ってNi/Mnのオーダリング形成は拡散に不利な伝導パスを形成させてしまうため、レート特性に乏しいことが定量的に示された。酸素欠陥の導入はNi/Mnオーダリングを解体するため、2つの伝導パスによる活性化エネルギーが平均化され実験で示された高いレート特性を発現するものと考えられる。 そこで、これまで得られた知見を基により高電位・高レート特性を指向した材料の探索を行った。LiNiVO_4,LiCoVO_4はそれぞれ4〜5Vの高電位程度を示す材料であるが、構造内のLi/Ni,Coの配列を制御することで、活性化エネルギーを0.25〜0.3eVまで低減できることを理論計算により示した。酸素欠陥導入の手法によりLi/Ni,Co配列を制御するような分子設計で大出力型の新たな正極材料が作成できる可能性を示すことができた。
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