申請者らは近年、フェムト秒レーザーの集光照射を用いて、ガラス内部に光の回析限界を超える精度で屈折率変化、イオンの価数変化、金属の析出、結晶化などの物理的・化学的性質の変化を誘起させることに成功した(誘起構造)。これらの現象を利用すると、三次元光導波路や三次元超高密度光メモリーなどの新規な光デバイスとしての応用が期待される。 平成16年度は、このような誘起構造に加えて、フェムト秒レーザー光の干渉や偏光特性を活用して自己組織的に周期的ナノ構造を形成した。一つのフェムト秒レーザーをシリカガラス内部に集光照射し、その集光点近傍を走査型顕微鏡の反射電子像で観察すると、レーザーの偏光と垂直方向に数十〜数百nm周期のナノ構造が形成されていた。ナノ構造の周期はパルスエネルギーに依存しており、パルスエネルギーを増加するにつれて、周期が増加する傾向が見られた。この結果はフォトンとプラズモンの相互作用を想定したモデルで説明され、フェムト秒レーザーと透明物質の相互作用に関する新たな知見が得られた。同様の効果は、サファイアや二酸化テルル結晶などの透明な単結晶においても確認された。特に、二酸化テルル結晶においては、周期的なナノボイド(穴)が形成されており、フォトニック結晶などの応用が期待される。一方で、二つのフェムト秒レーザービームの干渉を利用すると、ガラス及びポリマーなどの透明物質内部にサブミクロンオーダーの周期構造が形成され、その周期長が入射光の角度に依存して変化することがわかった。また、回折ビームスプリッターを用いて複数のフェムト秒レーザーを干渉させると、1パルスの照射で複雑な形状のナノ構造の形成が観察された。光導波路とこれらの周期構造を三次元的に配列することにより、新規な波長分派デバイスを構築し、異なる波長の光の分離を可能にする超小型デバイスを開発した。
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