研究概要 |
本研究の目的は、高分子電解質ナノ架橋体の粒子内相互作用及び粒子間相互作用を、バルクゲルの体積変化とポリイオン鎖のconformation変化に対比させながら、分子間の斥力と引力に基づく"バランスモデル"を用いて議論しようとするものである。そのための有効な手段の一つとして、架橋高分子網目(ゲル)の電荷分布の不均一性の効果を調べる方法が考えられる。そこで、本年度は,N-イソプロピルアクリルアミド(NIPA)を主要構成成分とする高分子網目内にポリイオンを包括固定化したバルクゲル(PIBG)とナノゲル微粒子(PEING)の膨潤・収縮を,温度・pH・塩濃度を変化させて詳細に調べた。その結果、PIBG及びPEING何れの系でも、架橋高分子網目の電荷がランダムに分布する系とは明らかに異なる膨潤・収縮挙動が観察された。これらの結果は、ゲル相とバルク相の間にDonnan膜平衡を仮定し、膨潤力をゲル相内の対イオンの浸透圧に帰着されるFlory'モデルでは説明できない。他方、架橋高分子網目の固定電荷間の静電相互作用を考慮するKatchalsky'モデルを基本とする"バランスモデル"は、引力として(a)異符号電荷間のクーロン力および(b)疎水性相互作用と(c)水素結合を考慮し、同符号電荷間斥力とのバランスを考えることでPEIBG及びPEING系の実験結果を良く説明できることが明らかとなった。他方、NIPAとアニオン及びカチオン性モノマーのランダム共重合で得られる高分子電解質ナノゲル微粒子(PENG)を用いて、両者の複合体形成を調べた。その結果も,分子論的には、鎖状高分子イオン間の複合体形成と極めて類似しており,"バランスモデル"を用いることで、十分に理解できることが分かった。なお、これらの結果を応用して、高分子電解質系グラフト共重合と等価な物性を有するイオン性ナノ架橋体(すなわちPEING)の合成法を考案し、本研究分野の新たな展開を試みつつある。
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