研究概要 |
液晶を形成する分子は一軸異方性の棒状形態を持つ。この基本的概念は、液晶の構造が配向の秩序をもとにできあがっていることを考えれば当然のことであり、確かに,現在まで合成されてきた多くの化合物はこの範疇から逸脱したものではなかった。一方、我々はこの常識にとらわれず、分子がベント形態(バナナ形状)を持っていても、液晶を形成することを明らかにしてきた。このバナナ形状は大いに液晶の概念を変えるとともに、構造の対称性を低下させ、従来には見られなかったあるいは創成が難しいとされた液晶構造を簡単に設計できるようになり、"バナナ液晶ゾーン"と呼ばれる液晶研究の新しい分野が開拓されてきた。本研究もその一連の研究のひとつであり、新しいバナナメソゲンの開発とともに、高分子化への展開を図ったものである。 オキサチアゾール環をベントコアーに有し、異なるサイドウイング、アルキルテイルを有する一連のバナナ型液晶を、まず高分子のモデル化合物として取り扱った。これらの分子は、2,4-ジヒドロキシベンゼンをバナナコアーとした古典的なバナナ型分子よりもベント角が小さいため、通常のネマチック(N)液晶、スメクチックA(SmA)液晶に加えて、より低温域にバナナ(Bx)相を形成することを見出した。このBx相は、層内で分子が液体的に充填している点ではSmA相とは変わりはないが、TGB相に類似ならせん構造、そして同時に反強誘電体としてのスイッチングを示す新規な相であることがわかった。高温域にいるN相、SmA相でモノドメイン化することで、Bx相の構造同定が極めて的確に行うことができたこと、またその強誘電スイッチング現象を利用した応用が現実的になったことなどの、大いなる展開を図ることができたが、主要なもう一つのテーマである高分子性との相関については、残念ながら、合成されたいずれの高分子も液晶の温度域が非常に高くなったため、具体的な研究進展を図ることができなかった。
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