ネマチック低分子液晶にキラルドーパントを混合させることにより分子配列にらせん構造が誘起され、コレステリック相が形成される。キラルドーパントの濃度によりらせん構造のピッチ長を適切な大きさに調整するとコレステリック相と等方相の間の約1Kの温度範囲にブルー相が確認された。ブルー相は可視光の波長オーダーの3次元周期構造を有する液晶として知られている。ブルー相は、光変調素子やチューナブルフォトニック結晶としての応用が期待できるが、そのためには発現温度の狭さを解決する必要がある。ブルー相を示す低分子液晶試料にアクリル酸エステルモノマーとジアクリル酸エステルモノマーを6〜7mol%添加して、ブルー相を保持しながら光重合を行ったところ、ブルー相の温度範囲が低温領域に大きく広がった。このように添加されたモノマーの重合によって温度範囲が拡大されたブルー相を高分子安定化ブルー相と呼ぶことにする。高分子安定化ブルー相は光学的に等方性であるが電界を印加すると複屈折が誘起された。高温ほどまた高分子の分率が増加するほど、立ち下がり応答時間は短くなった。ブルー相はキラル分子によるねじれ力と分子配列が連続につながろうとする空間トポロジーの「競合」の結果生ずるとされ、フラストレート相の一種として分類される。液晶には、ブルー相以外にもフラストレート相が多数存在し、独特の特徴を有している。本研究で見出された高分子安定化効果は、「競合」のバランスを大きく変えたことによると推察されるが、このメカニズムが他のフラストレート相に適用できれば、新規な機能性物質の創出につながると期待される。
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