蜘蛛の糸は、力学的に強い新素材として世界的に注目されている。しかし、蜘蛛糸の紫外線に対する影響については明らかにされていない。 実験を進めるに当たって、蜘蛛の糸への紫外線照射の際に、サンプルの温度の上昇および冷却用の風の影響など多岐にわたる問題点を解決すべく、石英ガラスを用いた。 クモの生息場所を探し、できるだけ同じ条件で生息しているジョロウグモおよびズグロオニグモから牽引糸を採糸した。採糸時に、クモはしばしば目的外の糸を出す。それで、測定用に調製した糸が牽引糸かどうかを確かめるべく、電子顕微鏡観察にて観察した。 本研究で牽引糸は紫外線照射によって力学的に強化され、最大値を示した後低下するということを見出した。具体的には、ジョロウグモの牽引糸の力学強度はUV-A照射により50%、UV-B照射により40%、UV-C照射により7%も増大した。この結果は、クモの糸は紫外線に強い新しい素材の可能性を示唆している。また、この結果は、バイオマテリアルが紫外線に弱いという世界的常識を覆すものである。なお、ジョロウグモの牽引糸は紫外線によって強化されるが、ズグロオニグモの牽引糸は強化されないことが分かった。分子レベルのESR測定から、紫外線照射によってラジカルが発生する。そのラジカルは分子間の架橋に使用されて力学強度がアップするが、時間とともに劣化が著しくなり、力学強度が低下するという機構が考えられる。 一方、紫外線照射による蜘蛛の糸の力学的強度増大の原因を探るために、屋外で張っている巣の張替え周期を調査した。その結果、蜘蛛の巣の張替え周期は牽引糸の力学強度の上昇、低下と密接に関係していることが分かった。 以上より、昼間活動する蜘蛛は架橋と劣化という観点から紫外線という自然界の環境因子を上手に利用していることがわかった。
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