光ピンセットとブリュースター角顕微鏡の複合システムを構築した。このシステムは膜のテクスチャー構造がその構成分子の配向状態を解析するのに十分なコントラストで得られる感度を有することが確認された。固相状態で観察されたトポロジカル強度s=1の整数次ディスクリネーションテクスチャーのブリュースター角顕微鏡像の解析から、本研究で用いた10、12-ペンタコサジイン酸単分子膜は固相状態であるにもかかわらず、水面法線方向に対して大きく傾いた状態で配向する、非常に特徴的な膜であることが分かった。上記整数次ディスクリネーションテクスチャーに対して光ピンセットによる局所加熱を行った結果、ピンセットの赤外レーザー強度がある閾値を超えるとs=1ディスクリネーションが2つのs=1/2半整数次ディスクリネーションに分裂することが明瞭に観察された。この実験結果は、気相、液体膨張相、液体凝縮相のみならず、固相状態に至るまで、光ピンセットが水面上単分子膜に対する、マイクロマニピュレーションやレオロジカルパラメータを評価するための非常に強力な手法となることを実証するものである。観察されたディスクリネーション分裂現象の像解析からこのディスクリネーション分裂はエネルギー的には膜を構成する分子の配向弾性エネルギーとドメインウォール間の線張力の競合関係により理解されることが示された。また、ディスクリネーション分裂のダイナミクスは上記の2つの因子に加えて、膜構成分子の再配向に伴う散逸力を含めた散逸方程式を考察することにより、その時間発展が説明されることを示した。以上のことから、水面上単分子膜のウォール構造を有するドメインテクスチャーの場合、光ピンセットでの局所加熱は膜構成分子の配向角に依存した線張力を変化させることを通して膜構成分子の再配向を駆動させることが可能となることが明らかになった。
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