平成15年度は、反強磁性を示す基盤のNiO(100)表面上に、反強磁性金属として知られているCr薄膜を形成し、界面に生じる磁気構造の変化について研究を行った。これまでは、スピンバルブへの応用の観点から、NiO基板上への強磁性Co薄膜を成長させた例が有名である。今回のCrの場合には、Crの磁気モーメントが1層成長するごとに反転することが予想され、それに伴った、界面での磁気構造に対する興味から研究を進めた。 放射光の直線偏光、及び円偏光を利用して、そこで生じる磁気2色性を利用して、反強磁性、強磁性磁区構造の観察を元素選択的に行った。その結果、Crの膜厚が増えるにつれて、下地のNiO基板における磁気モーメントの大きさがCr1層ごとに変化することを見いだした。Crの膜厚が奇数層の場合には、Cr膜に正味の磁気モーメントが存在する。一方、偶数層の場合には、1層ごとの磁化反転により、正味のモーメントはゼロである。下地基板の磁気モーメントの変化は、Crに生じた正味のモーメントとの相互作用であることが分かった。これらの結果については、Cr自身の磁区構造の観察に成功していないため、まだデータの分析中であるが、いくつかの研究会、学会において報告したほか、物性研究所附属軌道放射物性研究施設のActivity reportにも報告した。今後、国際誌に論文提出予定である。 一方、このような研究を進めていく上で、サンプルの温度変化に伴う磁区観察は非常に重要である。しかしながら、光電子顕微鏡においては温度ドリフトによってサンプルの場所が変わることは、実験上大きな害になる。本年度予算では、できるだけ、温度安定化が可能な、冷却用マニピュレータの設計、構築を行い、現在それを使った予備実験を開始している。 次年度は、温度変化とともに、蒸着物質、基板など、いくつかの可能性を探りながら、研究対象を広げていく予定である。
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