半導体表面上に成長したナノメートル厚さの金属島に電子が閉じ込められることにより、膜厚方向に量子準位が発生する。この量子準位のエネルギーレベルは金属島の膜厚に対して振動し、特定な膜厚において電子系のエネルギーが最低になることが予想される。この量子閉じ込めには金属島/基板界面が大きな影響を与えることが予想される。これに関し具体的に本年度は合金層を作らず急峻な界面が得られるAg/Si(111)系に関し、Si(111)表面上に発生するAgナノ島の高さ分布を定量的に走査トンネル顕微鏡(STM)、走査トンネルスペクトロスコピー(STS)、光第二高調波発生(SHG)などの手法を用いて評価し、清浄なSi(111)7x7界面および予め水素終端したSi(111)界面を比較検討して、界面のAg膜厚に及ぼす影響、Ag島内に発生する量子閉じ込め準位への影響を比較検討した。 研究の結果、水素終端処理したSi上に成長したAg島高さは、室温成長の場合には7x7表面上に成長したAg島と同様、5原子層(ML)程度の局所的な膜厚揺らぎを伴うこと、一方水素終端表面上に300℃で成長したAg島は局所的な膜厚揺らぎは1ML程度に抑制され、しかも個々の均一高さのAg島のドメインが7x7上の成長に比べて数倍程度以上に広くなっていることを明らかにした。またこれらの島中に閉じ込められたAg spバンド電子の界面垂直方向量子準位をSTSスペクトル中のピーク、ショルダーとして捉えることに成功し、界面水素は量子準位のエネルギーシフトを引き起こして居ないことを明らかにした。ただしSHGによるAg薄膜成長中のSHG強度振動中の量子準位由来の共鳴遷移ピークは、7x7表面に比べて水素終端表面上の場合に減少していることも明らかになった。バンド分散を考慮した量子閉じ込め準位の計算、および界面水素量の昇温脱離スペクトル(TDS)測定から、これは界面水素によりSi基板由来の伝導バンドのAg膜中へのevanescent的侵入による界面準位形成が阻害されているためであることが明らかになった。
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