カーボンナノチューブ(CNT)は、高いアスペクト比を持ち、また炭素原子間の強固な結合に起因する化学的不活性や耐イオン衝撃性を備えることから、理想的な電界放射用陰極材料の1つである。一般にCNTは、グラファイトシートがロール状に巻いた構造をしており、その先端は五員環が6個導入されて多面体的に閉じている。五員環は多面体の各頂点部に位置するため、電界放射においては電界が五員環部に集中し、優勢的に電子放出が生じると考えられる。実際に我々は、電界放射顕微鏡法(FEM)により、清浄表面を持つ単一の多層CNTの電子放出像の観察を行い、チューブ先端に存在する6個の五員環の明瞭な像の検出に成功した。さらに、各五員環面上での単一ガス分子の吸着・脱離現象に伴い、放出電流が2値化されて再現性良く増加・減少することを見い出した。単一分子の挙動は分子ダイナミクスに従うフェムト秒領域の超高速現象であり、またCNT中の伝導電子はバリスティック伝導による高い移動度を持つことから、超高速デバィスへの応用が期待できる。そこで本研究はこの応用の1つとして、五員環面上での単一ガス分子の吸着・、脱離をON/OFFに対応させた新しい動作原理に基づく超高速スイッチング素子開発の可能性を検討中である。
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