研究概要 |
本課題の目的は,スピン偏極走査型トンネル顕微鏡を作製し,室温強磁性半導体であるGaCrN等の電子状態をナノスケールで明らかにすること,GaN上に形成したGaCrN薄膜,量子ドットや希土類ドープGaN超薄膜の磁気的電気的性質をナノスケールで評価することである.本年度は,主にGaCrN薄膜,量子ドットや希土類ドープGaN薄膜結晶成長とそのマクロスコピックな評価を行った. 原子尺度で表面平坦性のよいGaCrN薄膜を得る目的でV/III比をストイキオメトリ近傍で変えて成長したところ,V/III比<1では表面平坦性のよい薄膜が得られるもののCrが薄膜中に取り込まれず,V/III比>1では表面が荒れるがCrは効率よく薄膜中に取り込まれ室温でも強磁性を示すことが明らかとなった.また,直径15-35nmで高さ4-8nmの形状を持つGaCrN量子ドット形成に成功し,これら量子ドットからと考えられるフォトルミネセンスがレッドシフトして観測された.これはAlN/GaN界面にできた強い内部電界(量子閉じ込めシュタルク効果)によるものと考えられる.自発分極以外に歪みによるピエゾ電界の寄与があることは,透過電子顕微鏡により量子ドット近傍で歪みに基づくコントラストが観察されていることからも支持される. 集束Mnイオンビーム照射によりGaAs表面に作製した強磁性層について,磁気力顕微鏡を用いて微小領域での磁気的性質の評価を行った.トポグラフ像では平均直径50nm程度の粒状構造が観察されているのに対して,磁気像では粒状構造がミクロン以上の幅を持つストライプ状ドメインとなって異なるコントラストで観察され,さらに粒状構造の個々の粒にもコントラストが観察された.これらのことから,この層の強磁性的性質は,注入したMnをベースとして結合した粒状構造を単位として形成されていると考えられる.
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