研究概要 |
分子線成長法で表面平坦性のよいGaCrN薄膜を成長し,磁気力顕微鏡を用いてミクロスコピックな磁区構造評価を試みた.その結果,磁気力顕微鏡やスピン偏極走査型トンネル顕微鏡などの強磁性プローブを用いる方法では,評価が困難であることが分かってきた.その理由は,GaCrN等の希薄磁性半導体では保磁力が小さいため,強磁性プローブが近づくことにより,その領域の磁化の向きが容易に変えられてしまい,その結果一様となって画像化されることが原因と考えられる.そこで,GaCrN/AlN/GaCrNなるトンネル磁気抵抗構造素子を作製し,常磁性などの通常のプローブを用いて評価する方法を検討した. GaCrN/AlN/GaCrNトンネル磁気抵抗構造素子を作製する上で,障壁層であるAlN層の厚さ制御,金属Al析出の抑制ならびにAlN層と強磁性層GaCrNの界面の平坦性が不可欠である.これらの要件を満たす方法として,Al分子線の短周期断続供給法を検討し,金属Al析出がなくかつ表面平坦性の良いAlN層の成長に成功した.この手法により成長したトンネル磁気抵抗構造を有するGaCrN(250nm)/AlN(3nm)/GaCrN(30nm)薄膜を断面透過電子顕微鏡により評価し,所望の構造が得られていることを確認した.また,磁気測定から,作製したGaCrN層は室温でも強磁性を示していることも確かめた.この成長薄膜から作製したトンネル磁気抵抗素子に対してゼロ磁場での電流-電圧特性測定を行い,AlN(3nm)層がトンネル障壁として有効に働いていることを明らかとした.外部磁場を素子面内に平行に印加してトンネル磁気抵抗の磁場依存性を調べ,障壁層AlNを挟んだ二つのGaCrN層の磁化方向が反平行となる領域での抵抗増大を観測し,希薄磁性半導体でのトンネル磁気抵抗効果の観測に成功した.
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