スラブ型光導波路上に格子構造を設けると、導波路内に回折される光の共鳴現象のために特定の波長の光が強く反射される。これを用いて狭帯域の波長選択フィルタが実現できる。本研究では、導波路層に電気光学効果を持つ媒質を採用することで、印加電圧で共鳴波長を制御する「波長可変の狭帯域フィルタ」の実現を目的としている。本研究では、光導波層にチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT:(Pb1-xLax)(ZryTi1-y)1-x/403)を用い、基板にはサファイア(Al203)、格子構造にはインジウム-スズ酸化物(ITO)を用いる構成とした。基板のサファイアと導波層のPLZTの屈折率差が大きいため、選択波長の半値幅が制御しやすい特徴がある。導波層に電場をかけるために、ITOの電極は櫛形の対向電極とした。これにより、導波層の下側に電極を設ける必要がなく、非常に単純な構造となり、素子の作製も容易になる。 初年度である15年度は、フィルタ構造の基本設計と素子の試作に取り組んだ。当初、導波路にはニオブ酸リチウムを用いることを計画していた。しかし、基板との屈折率差が小さいことから、製作時の形状誤差がフィルタ性能に大きく影響することが、数値シミュレーションで明らかになった。そこで、上記のPLZT導波層とサファイア基板の組み合わせに変更した。この構造での光の振る舞いをシミュレーションするための電磁波解析プログラムを作製し、印加電圧に対する共鳴波長のシフトの様子を数値計算で見積もった。簡易な数値計算では10Vの印加電圧で約10nmの共鳴波長シフトが得られることが分かった。一方、この計算を厳密に行うために、誘電率がテンソルで分布する場の電磁波解析を行う必要があり、この解析プログラムについても開発を行った。 素子の試作については、ゾルゲル法によるPLZTの成膜と電子ビーム描画によるITO膜のパターニングを組み合わせることで行った。この手法によって、PLZT膜状にITOの櫛形対向電極を形成することに成功した。
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