研究概要 |
本研究の目的は,経済学,システム工学,オペレーションズ・リサーチ,最適化理論,アルゴリズム理論などの広汎な分野における基礎的諸問題に関わる離散構造を,離散凸性という横断的視点から整理し,「離散凸」という新しいパラダイムを確立することにある.この目的の実現のため,「離散凸パラダイム」の横糸を成す,構造定理やアルゴリズムを代表とする離散関数に関する数理の研究と,縦糸を成す,諸応用分野における具体的な諸問題に対する研究を行った.具体的な本年度の研究実績は以下の通りである. ・ネットワークフローに関する最適化問題,とくに,劣モジュラ流問題およびM凸関数を目的関数に含む劣モジュラ流問題(M凸劣モジュラ流問題)に対して,効率的なアルゴリズムを構築した.劣モジュラ流問題に対し,構築したカット消去に基づくアルゴリズムは強多項式時間で最適解を求める.M凸劣モジュラ流問題に対し,構築した容量スケーリングに基づくアルゴリズムはこれまでで最良の時間計算量をもつ. ・デルタマトロイドの階数関数として現れる双劣モジュラ関数の最小化を行なう最初の組合せ的な多項式時間アルゴリズムを提示した.この結果により,デルタマトロイド多面体の分離問題に対する最初の組合せ的な多項式時間解法を与えた. ・数理経済学における一般均衡理論ならびに非協力ゲームへの応用をもつ,整凸集合上の離散不動点定理を与えた.この研究を契機として,いくつかの後流研究が生まれている. ・回路理論に基づくSVMの新しいグラフカーネルである「電気回路カーネル」を提案した.あるクラスのグラフにおいてこのカーネルを効率的に計算する公式を導き,現実問題への適用を試みた.
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