研究概要 |
部材の寸法が小さくなると,巨視的に観察されてきた均質・等方な性質とは異なった挙動を示すことが知られている.本研究課題では,スケール階層構造を考慮した微視的な系の力学モデルを確立することを最終的な目標として,箔材料の引張り変形特性を実験的に検討した.得られた結果は、以下のとおりである. 1.引張試験方法の確立:微小引張試験装置(マイクロサーボ)を用いて,有限な領域で巨視的に一様な変形を得るための試料寸法について検討した.10μm程度の厚さの箔試料について,5種類の試験片形状を設定し最適なゲージ長さを決定した. 2.箔の板厚依存性:電解銅箔およびアルミニウム圧延箔について,室温および高温での引張試験を行って,機械的性質の特徴と板厚依存性を検討した.その結果,電解銅箔では,バルク材に比べて非常に大きな変形抵抗を示し,延性は低下することがわかった.一方でアルミニウム箔では変形抵抗・延性ともに著しく低下することが示された.板厚依存性に関しては,電析によって創製される銅箔では,機械的な予ひずみを与えられないため,板厚依存性はほとんど示さず,一方アルミニウム箔では,予加工としての圧延プロセスによって,板厚が小さくなるほど延性が低下することがわかった. 3.引張りにおける局部くびれ:バルク材の銅およびアルミニウムは著しい延性を示すが,箔試料に関してはかかる延性的な挙動は観察されなかった.これは試料形状が拡散くびれを生じさせる形状ではなく,局部くびれによって支配される変形モードを促進している形状となっているものと考えられる. 今後は,数値解析的検討を行って箔試料中の力学的挙動を検証する必要がある.特に巨視的に得られた材料パラメータと変形挙動の相関,拡散くびれと局部くびれの分岐,さらに箔の異方性に関する板厚方向の特性を硬さ試験と数値解析の援用による統合型試験方法を確立することが望まれる.
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