研究概要 |
本研究は,ナノスケールで生じる力学応答場の局所的な不安定化の連続が,マクロな力学応答場へとスケールアップしていく過程において,欠陥集団場のダイナミクスを支配する原理を見いだし,その力学現象を記述できる方法論の確立をめざしたものである.そのために,作用応力状態にかかわらず,内部構造の発展挙動を物理的に捕らえる探索システムの構築を行うことが主たる目的である.その現象を定量的にとらえるために,ナノオーダーの力学挙動を精度良く制御しつつ計測可能なナノ・インデンテーションを,ここでは取り上げた.当初計画では,ナノインデンテーションの現象の理解とそれを非破壊的に観察する検索システムとして電子線誘起超音波顕微システム(SEAM)の適用を考えた.後者については,大幅なノイズリダクションに成功し,現在観察データの取得を行っている.前者の一連の研究成果から,ナノスケールでの押込み荷重-押込み深さの関係では特異な挙動を示し,スケールアップとともにその力学的応答の変化することを見いだした.すなわち,局所的な不安定力学挙動の連続が,マクロ現象と集団化していく結果,やがて連続近似の成立するなめらかな応答へと統計平均化,巨視化していく一連の実験的根拠を得た.また,力学現象が平均化されないナノスケールで見られる「変位バースト」という現象について,その限界押込み荷重とバースト幅に線形関係があることを,種々の表面粗さを持つサンプルの実験から見いだし,その成果を出版した(11.研究発表の欄参照).その線形関係は,供試材である単結晶アルミニウムの表面結晶方位に依存して傾きがかわること,バースト前後のエネルギーバランスから推定した関係式で,その方位依存性の傾きの比がおよそ説明できることを新たに示した.
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