研究概要 |
透明性を有するMS樹脂の耐衝撃性の向上を目的として,MS樹脂に微細なブタジエン系ゴム粒子を分散させたMBS樹脂が開発され実用化されている.MBS樹脂の応用範囲をさらに拡大するためには高性能化が必要であり,そのためには,ゴム粒子の構造制御により透明性と耐衝撃性の両方を向上させることが重要である.その有効な方法として,ナノレベルでMBS樹脂の構造を制御することが考えられ,特に,ナノサイズとマイクロサイズの2種類のゴム粒子を分散させるバイモーダル分散を採用することで高性能化の実現が期待できる.本年度の研究では,特に,バイモーダル分散型MBS樹脂の衝撃特性に及ぼすゴム粒子構造の影響を明らかにすることを目的とした.得られた結果は以下の通りである. (1)小粒子として粒径140nmの粒子,大粒子として0.4μmか1.6μmの粒子が分散する2種類のバイモーダル分散型MBS樹脂を作製した(前者をMBS-0.4,後者をMBS-1.6とする).これらの耐衝撃性を単一分散型と比較した結果,バイモーダル分散により透明性を維持しながら耐衝撃性を向上させることが可能であることが示唆された. (2)2種類のバイモーダル分散型を比較すると,平板貫通衝撃に対しては同等の衝撃エネルギー吸収能を示した.しかし,衝撃破壊靭性に対してはMBS-1.6の方が優れていた.この結果は,変形・破壊モードが異なれば耐衝撃性も異なることを示している. (3)平板貫通試験片では,まず衝撃負荷を受けた部分でゴム粒子のキャビテーションが生じる(白化の生成).その結果,その部分は延性的になり負荷の増加にともない塑性変形が生じる.その後き裂の発生と伝播が起こり,負荷部が貫通する.破壊靭性試験片の場合,MBS-1.6ではき裂先端部でキャビテーションが生じ,応力集中の低下が起こる,き裂先端部のごく近傍ではゴム粒子とマトリックスの著しい塑性変形が生じる.一方,MBS-0.4では肉眼ではキャビテーションの生成による白化はほとんど観察されず,き裂先端部近傍での塑性変形量もMBS-1.6より少ない.このように,き裂先端部という局所領域で応力集中が生じる場合,MBS-0.4ではキャビテーションの発生が抑制されるため応力集中の緩和が生じず,結果として破壊靭性の低下が生じたと考えられる.1.6μmのゴム粒子はサラミ構造をとるため高ひずみ速度下でもキャビテーションが生じるが,0.4μmのゴム粒子は主にコア・シェル構造をとるため高ひずみ速度下ではキャビテーションが生じにくくなるものと思われる.この詳細なメカニズムに関しては今後の検討課題である.
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