本年の研究補助により、STM測定装置の試料位置を2次元移動が可能になり、真空度は10^<-9>Pa台に安定して維持されるまでに改善された。信頼性の高いデータが得られたので以下に概要を報告する。 ナノ領域のAg薄膜を摺動したとき、薄膜に起こる変化をRHEED、STM、SOR-XRDを用いて結晶配向性を測定した。SOR-XRDは名古屋大学との共同研究で行った。主な結果は以下の3点である。 (1)Si(111)面に室温蒸着したAgは単結晶を形成し、Si面にAg(111)面を平行に配向して成長する。これを摺動すると、滑り面はAg(111)であるので、直ちに極低摩擦に至り安定して低摩擦が維持される。 (2)低摩擦(摩擦係数0.007)が発生するのはSi上にAgが網目構造を形成(膜厚1-8nm)するときである。即ちこれより薄い場合はSi上Agの√3構造とダイアモンドピンが直接接触し、これより厚いと掘り起こし効果の抵抗があり、摩擦力は上昇する。 (3)Si面に数nm蒸着し470℃以上に加熱するとAgは√3構造となる。そこにさらにAgを蒸着すると多結晶のAgの島を形成する。これを摺動すると徐々に摩擦係数が低下し同時にAg(111)面がSi面に平行になるよう微結晶子が回転と再配列を行う。 これらの結果は摩擦力を低減するための必要条件を示唆する。即ち滑り面を摺動面に平行に準備し、nm-オーダーの膜厚とする。さらに摺動面と皮膜との間には化学的相互作用が小さく滑り面を破壊しない条件が必要と結論した。この結果は2編の論文に掲載がみとめられ、さらに応用に拡大できるよう、企業および他大学の研究者と連携して、他の系の実験を積極的に続けている。
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