17年度は本研究3カ年計画の最終年度に当たる。ここでは17年度のみの報告を記す。 Agのnm厚さ皮膜の超潤滑現象と摺動に伴う表面変化の研究を行った。摩擦面のnm厚の摺動痕のみの結晶配向性を、シンクロトロン加速器放射X線回折SOR(つくば)を用いて極表層の観測をすることが出来た結果、Ag超潤滑現象のメカニズム解析は大きく進展した。その結果によると、 (1)多結晶Ag被膜を摺動すると、Ag(111)は任意の方向を向いている状態から出発して、摩擦回数の増加と共に摩擦方向に平行に、即ちC面が摩擦面に平行に配向した。さながらAgは流動する液体の如く振舞うことが明らかとなった。軟質金属の2次元に近い状態では金属の融点は室温近くまで下がり、低摩擦を発症させると解釈された。薄膜結晶にすると著しく異なる物性が実現し、超潤滑性を示すことが知られた。 (2)Ag原子はSi上を常温で移動できることは表面科学の分野で以前より知られていたが、摩擦面上でAg原子が移動する特性により、摩耗粉が出来ても結晶面のどこかに再結合して自己修復性を示し、結果的に摩耗粉が発生しないことが知られた。従って、Ag被膜は往復摺動を1000回以上繰り返しても殆ど摩擦痕から排除されない。 (3)多結晶Ag膜を摩擦すると、摩擦痕だけはAg(111)が摩擦面に平行になった単結晶として配向していることが走査型トンネル顕微鏡で観察される。したがって摩擦痕だけが単結晶として回折現象に寄与する特殊形状のスリットを用いない光源に利用できる。 応用面として、 (あ)低摩擦現象が超高真空環境で機能する事より、宇宙で機能する摩擦面を構築できる。 (い)摩耗粉を排出しないので半導体産業機器の摺動面として理想的である、 (う)油潤滑を使えない装置(布用ミシンなど)の潤滑面設計に利用できる、 ほか学問として (え)摩擦力を下げる条件として、接触する2面間の化学的相互作用を小さくすると、限りなく摩擦は小さくなりうることを、吸着実験と摩擦試験で実証した。
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