研究概要 |
近年,脳動脈瘤内の流れを観察すべく多くのモデル実験が行われてきたが,脳動脈瘤の複雑な形状が流れに与える影響は大きく,理想モデルでは瘤内の流れを十分に再現できていない.そのため実形状モデルを作成して,詳細な流れ場を調べる必要がある.瘤内血流構造と瘤壁構造変化,また瘤形態変化との詳細な関係は未だ解明されていない.瘤頭頂部,ブレブにて壁面せん断応力の高沸が報告されているが,せん断応力の大きさのみでは破裂,未破裂を分離することは出来なかった.一方,壁面せん断応力の向きの変化が瘤成長,破裂において重要であるといった報告もある.よって,本研究において実形状モデルを作成し,LDV,PIVを用いて瘤内の流れを定量化する.瘤内の流れの評価基準として,壁面せん断応力とその向き,大きさの変化をプロットする.加えて,その際に新たに渦度を瘤内の流れの評価基準として採用し,カラーマッピングする. 血流を模擬した拍動流を静水圧による定常成分に,拍動発生器からの拍動成分を重ねて再現する.作動流体にグリセリン水溶液(58.4%)を用いた.モデルは形態変化モデルと,瘤壁の一部にアテローム性動脈硬化症の肥厚(プラーク)を認めた,壁構造変化モデルを選択した. modelA-1,2ともに,ブレブにて特徴的な低速度の再循環領域が見られた.低速度の再循環領域により瘤壁面の脆弱化が促されるという報告がある.壁面せん断応力はブレブにて低かったが,一方,壁面せん断応力の単位時間変動は先端部にてピークをとっていた.また,流れの剥離点付近と再付着点付近にても変動の増加が見られた.一方,動脈瘤モデル内での渦度分布を見ると成長前モデルではブレブ内,ブレブエッジ(特に剥離点付近)において渦度の高沸が見られた.このことから,壁面せん断応力の変動が破裂,成長に関与している可能性があると考える.構造変化モデル(model B)動脈瘤内では非常に複雑な流れが形成され,壁面せん断応力はプラーク部と健常部で明確な違いは見られなかった.ブレブ出来始めの部位(point4)にてせん断応力変動の高沸が見られ,他の部位では比較的一定の低い値が見られた.これは形態変化モデルで見られた傾向と一致しており,この部位から成長が促されると考えられる.
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