研究概要 |
電磁方程式の直接差分解法は,Mie散乱理論では対処できなかった多重散乱の影響を正しく考慮できるが,電磁気学の概念でエネルギーの流れる方向と強さを表すとされる電場Eと磁場Hの外積の実効値は,各方向に流れるエネルギーをベクトル合成したものであり,方向別に単位立体角当たりのふく射エネルギー流束を表現するふく射強度の概念を如何に結び付けるかが未解明であった.今年度はこの問題を主テーマとして研究に当たり,近接界から遠方界を求める等価定理の考え方を応用すれば,粒子群全体のうちの着目した部分の粒子集団によって散乱されたふく射エネルギーのふく射強度を求められることを解明した.着目した部分の粒子集団に入射するエネルギーが既に他の粒子集団による散乱を受けていると,評価したふく射強度の方向依存性から直接的に位相関数を導き出すことはできないが,粒子層に入ってからの距離と散乱の進み具合について,多重散乱を考慮しない従来の位相関数を使用した場合にどの程度の誤差が生じるのかを粒子数密度との関係で明らかにすることができるようになる. 粒子形状が真球でない場合,まったく同じ粒子であってもその姿勢で散乱の状況は変わるが,あらゆる姿勢を等確率で採るものと考え,その粒子はどの程度の大きさの真球と同等の散乱を生じるのか検討した.ラグビーボール形ならびに薬剤カプセル形といういずれも回転体の場合であるが,比較的小さい散乱角範囲での散乱パターンは,あらゆる姿勢での投影面積の平均値に等しい投影面積を有する真球による散乱パターンと良く一致することが確認できた. また,粒子の替わりに無限円筒を用いた2次元散乱問題において,間隔を光軸に垂直な方向にのみ広げていった場合にどの程度の間隔で多重散乱効果が無視できるようになるかは昨年度に判明していたが,今年度は光軸方向,垂直方向ともに同等に粒子間隔を広げる自然な間隔の広げ方でその限度を調査し,結果を得ることができた.
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