研究概要 |
細胞の凍結に関連した生体の熱・物質移動の問題として、凍結に関わる要素過程である未凍結水溶液の濃縮による電解質濃度の増加(溶液効果)に注目し、非凍結低温条件(15℃)において、高濃度NaCl水溶液にさらされた細胞の損傷・死滅特性を定量的に調べると共に、細胞の生存率レベルでの現象論的検討に基づいた反応速度論的モデルを展開した。具体的には、以下のようである。 1)電解質(NaCl)水溶液の灌流により、細胞(ヒト由来前立腺ガン細胞株PC-3)まわりの温度・濃度条件(25℃・等張)→(15℃・等張)→(15℃・高張(NaCl濃度C_m、暴露時間τ))→(15℃・等張)→(25℃・等張)を課し、細胞の損傷・死滅特性として、細胞の生存率(死滅率)を計測した。C_mを2.0〜4.0Mの3通り、τを5〜170minの16通りで、計29通りの条件とした。 2)1)の結果から、細胞の生存曲線、死滅の確率分布関数と確率密度関数などの統計的特性、細胞損傷・死滅の特性値を求め、平成15,16年度の結果(4℃と25℃)との比較・検討により、暴露温度の影響を明らかにした。 3)いずれの温度でも、細胞の損傷・死滅は、速度論的・相似的に進行することを見出すと共に、その機序は同様であると示唆された。 4)細胞が、中間状態を経て死んだ状態に至るという、前年度までの反応速度論的モデルを展開し、細胞の生存率の実験結果に基づく逆問題解析から、反応形体と速度定数を定め、その反応速度論的特性に対する温度の影響を解明した。いずれの温度でも本モデルが妥当であることを示した。 5)温度のより詳細な影響として、(C_m=2.0M,τ=60min)と(C_m=3.0M,τ=30min)の場合、細胞の生存率は、大体20℃前後の温度範囲で大きく減少する非常に興味深い特性を見出した。これは、細胞膜の相転移やそれによる膜の流動性の変化と関連すると推測されるが、より詳細な検討を要する。
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