研究概要 |
酸化中に磁性微粒子を析出させた、いわゆるグラニュラー構造の薄膜は、従来スパッター法によって作成され、その高い電気抵抗のために高周波で高透磁率を有する薄膜材料として注目されている。本研究では、これを酸化物、強磁性金属を別個に蒸発させる方法(共蒸着法)によって、従来のグラニュラー構造とは異なるナノ構造を持つ薄膜を作成した。この構造は、直径が約3ナノメートル強磁性金属微粒子が、膜厚方向(蒸発ビーム入射方向)に柱状に配列しており、この形状によって磁気的には安定な透磁率を持ち、また面内方向には、従来グラニュラー構造に比べて数桁高い電気抵抗を持つ。本研究課題では、蒸着装置の改造によって、(1)これまで低融点酸化物に限られていた組成を、幅広い組成を組み合わせた場合に微粒子構造がどのように変化するか、(2)微粒子構造と高周波特性との関連、(3)電流磁気効果の発現、などを調べた。その結果、以下のような成果が得られた。 1.改造した装置で、(FeNi,FeCo)-MgF2を共蒸着した結果、これまでに研究をすすめてきたFeNi-B203に比べて、より高い電気抵抗が得られ、Mn-Zn系フェライトの1Ω-cmに匹敵する価となった。しかし強磁性微粒子の配列は弱まった。 2.これらの薄膜を、擬似伝送回路(マイクロストリップライン)の近傍に置き、その漏れ電磁界の吸収特性を測定した結果、従来の厚さ数100ミクロン以上の電磁波ノイズ吸収材料に比べて、厚さが数μmで同等の吸収スペクトルが得られた。 1.の成果では、酸化物の選択を広めることによって、フェライトに匹敵する電気抵抗を持つ高透磁率薄膜が得られる可能性を実証した。2.では、高速化が可能な蒸着によって、ミクロンサイズの電磁波吸収薄膜ができることを実証したもので、微粒子配列の制御方法の探索によって、実用性の高い材料が期待できることを示している。
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