絶縁体、半導体および金属をも包含する異種材料同士をナノメートル層厚でエピタキシャル積層した人工ヘテロ構造(≡超ヘテロナノ結晶)は、その接合界面における際立って大きな物性の相違により、ナノメートル領域における超高速かつ非線形な共鳴トンネル輸送現象や、サブバンド間遷移光吸収・増幅などの光-電子相互作用を量子閉じ込め等により人工的に制御するための基本構造として有望である。 本研究では、他に類例をみない量子構造材料としてフッ化物系絶縁体フッ化カルシウム、フッ化カドミウム、シリサイド系金属コバルトシリサイドを採用し、結晶成長法としては本研究独自のナノサイズ微細加工と超高真空中分子線エピタキシー法を組み合わせたローカルエピタキシー法を用いて、量子構造の精密制御と量子ナノ構造デバイスへの応用を目指した研究を行っている。本年度は下記の成果を得た。 1)試料調整上の理由でこれまで困難であったフッ化カルシウム、フッ化カドミウムのエピタキシャル積層構造の、透過型電子顕微鏡による断面結晶格子像の取得に初めて成功した。これまでは電気特性レベルの評価で作製した結晶の高い品質が類推されていたが、今回初めて急峻なヘテロ界面の顕微鏡画像化に成功したことにより、本研究で提案する結晶成長法の有効性が改めて実証されたことになる。 2)フッ化カルシウム・フッ化カドミウムエピタキシャル積層構造を用いて、量子カスケードレーザの基本構造となる活性層を1周期作製し、室温において電流注入実験を行ったところ、ほぼ設計通りの1.3um波長帯の発光を観測した。今後発光メカニズムの詳細を明らかにするとともに、量子カスケードレーザ応用への研究を進める予定である。今回得られた成果は、本研究で提案する量子ナノ構造の光デバイス応用への可能性を実験的に示す重要な第1歩と位置づけられる。
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