研究概要 |
相反原理に基づいて走査プローブでホットエレクトロンの回折現象を観測することを目指し、理論シミュレーションを行ってpAオーダーまで電流感度を上げる必要を明らかにし、弾道電子放出顕微鏡(BEEM)技術を改良して、試料表面の二次元面内でpAオーダの信号をほぼ均一に取得することまでを達成した。電子波回折現象観測の直前まで研究を進めた。 三次元シュレディンガー方程式を時間領域有限差分法(FDTD)に無反射境界処理法を組み合わせて解き、位相シフタ素子においてpA程度の回折コントラストを得るための注入電子エネルギ幅を明らかにした。また探針から半導体に電子が球面波が注入される条件を解明した。さらにビームスポットサイズが小さいことによる回折効果が5倍程度電流を変化させることを明らかにし、従来のBEEM理論にこの回折効果を組み込むことを提案した。 現有の走査トンネル顕微鏡(STM)に購入した制御系を組み込んでBEEM装置とした。GaAs/Auショットキー素子において、測定系の電流検出精度を室温でpAレベルまで高精度化し、定常ノイズ除去に必要な積分処理条件を明らかにした。二次元空間での像取得のため、長時間安定してホットエレクトロン注入を可能とする条件把握を行った。その結果、探針を一点に必要時間停止させてpAレベルの信号を取得し、次の点に移動させる手法を確立した。これを用いて二次元走査を行なってショットキー障壁高さの二次元分布像を取得した。セルフアラインプロセスを考え出して金属蒸着前の半導体表面を清浄に保った。また均一なショットキー障壁高さ分布を得るためにAu,Pt,WとGaAs,Siとの様々な組み合わせを試した。最終的な凹凸原因として、蒸着した10nm厚金膜には10nmオーダのグレインが存在し、境界でトンネル電流が不安定になることが明らかになった。 以上、相反原理による電子波回折現象観測の可能性と条件を明らかにしBEEM技術を確立させた。エピタキシャルにより表面導電層を形成して目的を完全に達成することが残された課題である。
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