共鳴トンネルダイオード(RTD)は700 GHzの発振や、THzを超える応答性が報告されている超高周波デバイスであり、最も実用に近い量子効果デバイスとして期待されている。我々はこれまで、高速・高機能な論理素子MOBILE (Monostable-Bistable Transition Logic Element)を提案し、その特長の一端を示してきた。本研究は、その成果を基に、従来技術では不可能な超高速集積回路技術を開拓することを目指している。 まず、MOBILEの特徴を生かせるapplicationとしてΔΣ型A/Dコンバータに関する研究を進めた。これはMOBILEが理想的なコンパレータ特性を持つという特徴を利用したものである。ここでは、ΔΣA/DコンバータのキーコンポーネントであるΔΣ変調器のプロトタイプを設計・試作し、入力信号のパルス密度への変換を確認した。 また、MOBILEの極限高速化をねらい、過渡電流により信号を伝達する容量結合型MOBILE (C^2MOBILE)についても研究を進めた。非常に微小な時間間隔で各ステージのゲートにクロックを分配する方法について検討し、線路長の違いによる遅延を用いる方法と、値の異なる抵抗を挿入する方法の二つについてその効果をシミュレーションにより確認した。その後、抵抗挿入型の遅延クロック生成方法を用いて、C2MOBILEの基本演算回路を試作し、その基本動作を確認した。今後、動作速度を決める要因について理論的検討を進めるとともに、簡単な論理回路の試作により動作を実証していく。 また、共鳴トンネルカオス回路についても検討を進め、88GHzという高い周波数で分周動作を実証するとともに、同期リセット回路を組み込んだカオス集積回路を提案し、高周波領域でのカオス波形の直接観測に初めて成功した。
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