研究概要 |
建築音響の分野で,室内の音場が拡散音場であれば,室の残響時間は室の内表面積に反比例することが知られている.この現象を利用して,測定対象物体を中に置いた容器の残響時間を求めて,対象の表面積を測定することができる.この原理に基づく表面積計を実現するための,理論的および実験的な検討を行った.測定用容器内の音場をできるだけ拡散音場に近づけるため,実在の残響室を縮小した形状を持つ容器を製作した.この容器に,音源および音圧検出用マイクロホンを取り付け,音源から帯域雑音を断続的に放射して,容器の残響時間を測定した.いくつかのサンプルを用いて実験をおこない,以下の結果が得られた.(1)塩化ビニールフィルムなど,比較的吸音率の高い対象については,残響時間法によって表面積を測定できるという見通しがえられた.(2)しかし,試作装置内は,十分には拡散音場になっておらず,対象の配置などへの依存性がのこった.(3)測定装置の気密性などの条件が極めて敏感に残響時間に影響を与える.また,並行して容器の音響インピーダンスを測定する実験も行った.これらの検討結果を総合して,金属など吸音率の低い材質の物体には音響インピーダンス法が適し,比較的吸音率が高く形の変形しやすい対象には残響時間法が適することが分かった.今後,測定容器内をより拡散音場に近づけ,気密性を厳密に制御すると共に,温度変動,気圧変動などを遮断する測定装置を設計して,実用的表面積計の実現を目指す予定である.
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