研究概要 |
本年度目標としたところは,1)音響処理ことにコンパクトディスクのフォーマットから20kHz以上の可聴帯域以上の高域を再生する超高域処理DAコンバータの設計,開発,また2)サンプル値制御理論に基づく信号圧縮,さらに3)雑音の多い音源からの雑音分離処理である. 1)についてはCDのサンプリング処理の4倍のオーバーサンプリングを実施し,これに対して完全帯域制限仮定を設けない条件の下で,アナログ特性によるナイキスト周波数以上の帯域延長特性を仮定した上でサンプル値H∞(準)最適フィルタを設計した.これをPC上で動作するDSPボードに実装し,実際にCDプレーヤーからのディジタル光出力を直接にDSPボードに入力し,PCのコントロール下で上記設計のフィルタ演算を施し,再びアナログ出力に変換した上でオーディオアンプに入力の上,CDの出力とのリアルタイム比較を行った.その結果,すべての楽器の実在感,高域の解像度,音場再現能力のすべてにおいて,現在のCDをはるかに上回る性能が得られた.多数のアマチュアリスナーの比較試聴でも全く同様の結果であった. 2)に対しては,同様の原理をダウンサンプルしたソースに対して適用し,フイルタバンクによる圧縮を行ったうえで,同様のフィルタによる復元を行うことにより,大幅な音質劣化を起こすことなく従来より簡単かつ高速な処理で従来と同等あるいはそれ以上の音響ソース圧縮を可能としたものである.具体的にはMPEG1LayerII以上の音質を48kbps程度まで,はるかに簡明な処理の下において実現している. 3)においては,処理過程において主として高域に混入する雑音の除去を目的としている.これは例えばSPに代表される古い録音ソースのレストアにおいて必要な技術であるが,従来は単純なローパスフィルタや特定帯域に対するノッチフィルタを適用する程度の処理しか行われていなかった.その際必要な高域情報まで失われてしまうことが大きな問題であった.本研究ではこれを処理過程に混入する量子化雑音とみなし,その最適除去フィルタをサンプル値制御理論を用いて設計したものである.さらに上記のオーバーサンプリング処理を適用することにより,必要な高域情報の最大限の保持を目指したものである.これはすでに相当の成果を挙げ,京都ディジタルアーカイブ研究センターとの協力の下にSPレコードのアーカイブ化に適用され成果を上げている.
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