研究概要 |
東京湾において,2つの周波数を持つ超音波を用いた底質探査を実施することにより,軟泥の堆積層厚の空間分布を把握した.しかし,本手法では音響散乱による問題も明らかとなった.そこで,底質コアを採取することにより,直接,底質の3次元分布を把握することを試みた.まず,エクマンバージ採泥器の内部に着脱式のコアを設置し,効率的にコア採取ができるようにした.本手法を用いて,東京湾奥部の約50点において表層底質の柱状採取を行った.各試料を鉛直方向に1cm〜3cm間隔でスライスし,それぞれの粒度分布,含水比,全有機炭素,全窒素,炭素および窒素の安定同位体比分析を行った.本調査より湾奥中央部に含水比や有機物含量が高い有機汚泥が広がっていることが明らかとなった.一方,底質粒径分布を考慮可能な数値軟泥堆積モデルを開発し,流動モデルと結合することにより,東京湾における軟泥堆積過程を再現した.現地観測結果と数値実験結果により,このような分布が得られた原因として,底質粒径が細かく有機物が吸着しやすいこと,再懸濁を通じて細粒分が湾奥中央部に集積しやすこと等が考えられるが,さらにCN比の分析から,湾奥中央部の底質はその周辺海域等に比較して,未分解の有機物が多いことが判明した.このことは有機物が蓄積しやすいというメカニズムに加えて,湾奥中央部が初春から初冬まで恒常的に無酸素,貧酸素水塊に曝露されることによって,底生動物の付着が著しく抑制され,有機物の分解速度が著しく小さいことに原因があるものと考察された.鉛210を用いた堆積年代推定によれば湾奥中央部が必ずしも高い堆積速度を示しているわけではないことも,貧酸素の曝露による有機物分解速度の低下が有機汚濁泥の主要因であることを示唆している.これらを踏まえると,湾奥中央部の底質環境のモニタリングは内湾環境再生の目標設定や現況評価に有用な情報であると考えられる.
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