研究概要 |
有明海西部海域における高濁度層の形成と貧酸素水塊の形成との関係を調べるために,2002年9月と2003年7月の大潮時に現地観測を行った.その結果,有明海特有の強い潮流によって高濁度層が形成され,上げ潮最強時と下げ潮最強時における濁度は海底付近で20〜40ppmにも達することが明らかとなった.DO濃度が高い場合,底面付近の濁度とDO濃度の間には負の相関が見られ,酸素消費が高濁度層の形成と密接に関係していることが示された.また,懸濁物質(SS)による酸素消費速度を室内実験により評価し,底泥表面からの酸素消費速度と比較した.その結果,SSによる酸素消費速度は底泥表面からの酸素消費速度の約13倍の値をとり,貧酸素水塊の形成にはSSによる酸素消費過程が重要であることが明らかとなった. 有明海湾奥部において底泥間隙水の水質調査を行った結果,南西側でAVS濃度は高い値を示しており,竹崎沖の底泥は広い範囲で嫌気状態となっていることが明らかとなった.竹崎沖の底泥を用いて酸素消費の実験を行った結果,底泥表面からの酸素消費に加えて,巻き上げに伴う酸素消費,つまりSSによる酸素消費と還元物質の溶出に伴う化学的酸素消費が貧酸素化に対して極めて重要な影響を及ぼすことが明らかとなった. 有明海竹崎沖の底泥環境を浮泥の栄養塩の吸着・溶出現象と関連づけて検討し,仮説の妥当性を室内実験により検証することを試みた.その結果,底泥中の栄養塩濃度は深くなるほど高くなるという一般的な結果に反し,有明海竹崎沖の底泥中の栄養塩濃度は,還元層において深さ方向に著しく低下することが見出された.また,底泥の巻上げ実験の結果,DO濃度は減少するが,栄養塩濃度は増加せず,ほぼ一定値を取ることを見出した.これらの実験結果から,「有明海湾奥部西部海域において,浮泥による栄養塩吸着が活発に行われている」という仮説の妥当性が示唆された.
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