本研究では糞便性指標微生物の遺伝子マーカーと化学マーカーを組み合わせた迅速(1-2日程度)かつ簡便な、糞便性汚染源の特定と汚染度の定量的評価手法の開発を行うことを目的とした。腸内蛋白質分解細菌の最優占種であるBacteroidesに着目し、培養を必要としない分子生物学手法(16S rDNAクローンライブラリー法やTerminal Restriction Fragment Length Polymorphism : T-RFLP法、定量PCR法)を用い、宿主特有のBacteroidesの16S rRNA遺伝子配列(遺伝子マーカー)を特定・探索することにより、水環境中の糞便汚染源(人間、牛、豚等)を特定する。研究成果は以下のように要約される。 宿主動物(人間、牛、豚)毎に特異的なBacteroides種が存在し、宿主動物を認識することが可能な16SrRNA遺伝子配列(遺伝子マーカー)を見つけ出すことに成功した。これによって、これら特異的なBacteroides属を指標微生物とすることにより、糞便汚染源の特定が可能であることを示唆している。次に、これら宿主特異的遺伝子マーカーを迅速かつ簡便に検出・定量するために、これらの遺伝子マーカーに特異的なPCRプラーマーのセットを7つ設計することができた。これら設計したPCRプラーマーセットを用いたT-RFLP法を確立した。この結果、宿主動物毎に特異的なDNA断片長を有するクローンが河川環境中に多く存在することが確認された。したがって、これらのDNA断片は宿主動物毎の遺伝子マーカーとなることが確認できた。また、遺伝子マーカーの迅速な定量を行うために、それぞれのプライマーセットに対応するReal-timePCR法の反応条件を確立した。T-RFLP法およびReal-timePCR法による解析は、DNA抽出から定量まで約8時間で終了し、かつ培養法によるバイアスを排除できるため、より正確に複合微生物系内に存在する各種糞便性大腸菌および病原細菌の特定・定量および汚染源の特定・モニタリングが可能となると思われる。また、検出限界は極めて低く、高感度かつ特異的な糞便性大腸菌汚染の指標となることが明らかとなった。
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