研究概要 |
建設工事には,多様な不確定要因が伴っている。悪天候,災害,事故をはじめ,設計図書の不備による工事のやり直しや遅延,それにともなう工事予算の増加などである。これらのリスクは,事業の実施に少なからぬ影響を及ぼしている。これまでの建設工事では生産者,特にゼネコンが潜在的に予算を捻出してこうしたリスクに備えていた。建設工事のリスク管理は担当する技術者の経験や勘に基づくことが多かったものの,経済情勢の良好な期間は事業者からの受注金額に余裕があったため,事業への悪影響が表面化することは少なかった。ところが,近年の経済情勢では建設工事費が劇的に削減される一方,事業者によるリスクへの引き当て手段は放置されてきた。その結果,下請業者への価格ダンピング強要,事業途中での建設業者の倒産,事業の中断などの重大な結果が表面化するに至っている。そこで本研究では,申請者らによるこれまでの理論研究を発展させ,(1)実際の建設工事でのリスク管理状況の把握,(2)科学的リスク管理手法の適用,(3)リスク管理の費用対効果の評価,を行い,その結果からわが国の集合住宅建設プロジェクトにおけるリスク対策費の最適配分方法を導出することを目的とした。本年度は兵庫県下での実際の集合住宅建設工事を調査し,(1)について竣工後までのデータを収集した。(2)については,リスクマネジメントシステム構築手法の先行事例を継続的に検討中である。(3)については,いわゆる「欲張り法」による評価を行い,試行的なシステムを開発した。
|