研究概要 |
最近,磁気冷凍が地球環境にやさしく,かつ省エネルギーが図りやすい冷凍技術として注目されている.磁気冷凍は磁気熱量効果を利用した冷凍法であり,その実現には大きな磁気熱量効果を示す物質の開発が不可欠である.われわれは一次転移が大きな磁気熱量効果を示す可能性があることを指摘し,2002年にMnAs_<1-x>Sb_xが室温付近で巨大磁気熱量効果を示すことを見出した.本研究はMnAs_<1-x>Sb_xを中心に,室温から低温での磁気冷凍デバイスを開発するための磁気冷凍特性の評価を目的としている.本年度の結果は以下のとおりである. 1)MnAs_<1-x>Sb_xの磁気熱量効果に及ぼす熱処理の効果を調べた.この化合物は非化学量論組成を持つので,再現性のある結果を得るには熱処理条件を吟味する必要がある.その結果,固相反応では,融点直下で焼結することにより,再現性のある磁気熱量効果が得られることが明らかになった.一方,バルク材料を得るには,一度融解しなくてはならない.この場合溶融状態からクエンチして,再焼鈍することにより,良好な磁気熱量特性が得られることを見出した.これまでの熱処理ではMnAs_<1-x>Sb_xの磁気熱量効果はx=0.4で小さくなると報告されていたが,本研究ではx=0.4でも巨大磁気熱量効果を示す物質を開発することに成功した. 2)巨大磁気熱量効果の原因を調べるために,MnAs_<1-x>Sb_xの低温X線回折実験を行った.その結果,x=0.1の示す磁気転移は一次転移であることが明らかになった.これまでこの系は二次転移を示すと考えられてきたが,良質の試料を得ることで,構造変化を伴わない一次転移を示すことを確認した.同様の一次転移は磁場によっても生じることも明らかになった.これが,Sbを入れても大きな磁気熱量効果が保たれる理由である. 3)断熱温度変化を直接測定する装置を作製し,MnAs_<0.9>Sb_<0.1>について測定を行った.その結果,T_Cで5Tの磁場をかけたとき,約10Kの断熱温度変化を計測した.これは磁気冷凍材料としても十分大きく,これまでエントロピー線図から示唆されていたMnAs_<1-x>Sb_xの巨大磁気熱量効果が直接検証された. 4)MnAs_<1-x>Sb_x以外の物質として,反強磁性-強磁性転移を示すMn_<3-x>Co_xGaCやフェリ磁性-常磁性転移を示すHo(Co_<1-x>Ni_x)_2についても磁気熱量効果の評価を行い,それぞれの一次転移温度付近で大きな磁気熱量効果を観測した.
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